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例題
これまた前々回と似たケース。アクション映画が大嫌いなCさんがネットでこんな記述を見掛けました。
「アクション映画スターの脱税が発覚」
続きを読むと、そのアクション映画スターは○野○男とのことですが、そんなことはどうでもいいのです。Cさんは内容の真偽を確認することもなく、ここぞとばかりに匿名掲示板に自分の見つけた記述へのリンクを張ったり、そこかしこのSNSに「アクション映画スターの脱税が発覚」と書いたりし始めました――
ここがおかしい――
やはり基本的には同じです。その記述を書いた人間は大のアクション映画嫌いでした。たまたま脱税で検挙された○野○男がアクション映画スターであること知り、アクション映画の悪い印象を広めるためにそのような書き込みをしたのです。
しかし今回はかなり厄介なケースです。本質的にCさんは最初の悪意ある書き込みの主と同じメンタリティの持ち主です。Cさんはかねてから抱いていた悪意を後押しするかのような書き込みに便乗して、面白半分にアクション映画を叩き始めたわけです。
解説
「ある集合に属する一部の人間が何らかの悪いことをしていた」という事実を用いて、意図的にその集合全員のイメージ低下に用いることが出来るという点はやはり同じことです。
しかしこのケースは、それだけに収まりません。何らかの事物に対して悪い印象を与える情報というのは、その事物に元から嫌悪感を抱いている人間にとって、それを攻撃する絶好の材料となります。
Cさんにとって、「アクション映画スターの脱税が発覚」という情報の正確さやそれの持つ意味どころか、真偽そのものさえ、端から検討の対象とならない(むしろしたくない)のです。
Cさんは、自分が最初の書き込みを行ったわけではないという点では、最初の書き込みの主ほど短絡に悪意を行動に移す性格ではないようです。通常の人間は、多少なりとも
・「嘘や悪口を言ってはいけない」
・「バレたらどうしよう」
といった抑制が働くものです。しかしCさんは、心の奥底では最初の書き込みの主と同じ悪意を持っています。彼の心にブレーキを掛けている上記2つの抑制が外れてしまえば、彼も同様の行動に及ぶわけです。
この例の場合、「アクション映画スターの脱税が発覚」というのは事実です。記述内容が多少誤解を生み易い形であっても、よしんば間違いであったとしても、Cさんにすれば「最初の書き込みの主の責任であって、自分に非はない」といったところでしょう。そのことがCさんにとっての免罪符になってしまい、無批判に最初の書き込みを受け容れてしまったわけです。
一方、最初の書き込みの主はとにかくアクション映画に対する悪いイメージが広がればそれでいいという人物ですから、Cさんのような人間が出て来るのはむしろ好都合です。
下手をすればさらにCさんの書き込みを転載する人間が出て来ることも考えられます。最初に1枚ドミノが倒れれば、後は自ずと連鎖して倒れる。言うなれば「悪意のドミノ倒し」です。
ちょっと待った!
こうした連鎖は、じつは悪意だけに限りません。SNSなどで、善意のはずの書き込みが連鎖して騒ぎになったケースが報告されています(いわゆるチェーン・メール)。
善意でも悪意でもないケースでも、こうした連鎖反応は起こり得ます。これらについては、こちらを。
筆者の見解
今回お話ししたように、特定の対象についての悪意のある嘘に騙される人がいたとして、じつはその人自身が元々その対象について悪意を持っている可能性も多少は疑ってみるべきでしょう。
さて、「ある集合に属する一部の人間が何らかの悪いことをしていた」という事実を用いて、意図的にその集合全員のイメージ低下に用いることが出来るという事例について、3回連続で解説しました。
3回とも受け手の性格と受け取り方は異なっているわけですが、結局はアクション映画に対して悪いイメージを抱かせています。仮に誰かがその書き込みの意図を見抜いたとしても、今回の場合、せいぜい「アクション映画スターの脱税が発覚」ではなく「○野○男の脱税が発覚」と書くべきだと書き方の問題点を指摘されるだけで、嘘をついたとは非難されないでしょう。
悪意を持った最初の書き込みの主にとって、その書き込みには絶大なメリットがある一方、彼自身は何のリスクも負っていないという点に気付いていただけたでしょうか。
こうしたことを考えていくと、筆者はネットに限らず匿名の悪口の持つ危険性というものがまだまだ世間で過小評価されていると思わざるを得ないのですが、あなたはどう考えるでしょう。
演習
1・まず、あなた自身が特定の集団を嫌っていたりしないでしょうか。
2・これまでにその集団(○○とする)に属する人物が問題を起こしたことが報じられた時に、それを勇み足でSNSやブログに転載したことはなかったでしょうか。
3・その時「その人物自身が問題を起こした」ということよりも、「○○に属する人物が問題を起こした」ことを強調する内容になっていませんでしたか。
※その後、こちらを。
今回、あくまでCさんを騙す側でなく騙される側として紹介していることをお忘れなく。誰もがCさんになり得るのです。
前回に似たケース。アクション映画の大ファンであるBさんがネットでこんな記述を見掛けました。
「アクション映画スターの脱税が発覚」
続きを読むと、そのアクション映画スターは○野○男とのことです。「アクション映画の役者がそんなことをするはずがない!」と大慌てて検索したところ、十分信頼出来るニュース・サイトにおいて確かに「アクション映画スターである○野○男が脱税をしていた」という記事を見つけました。Bさんは何だかがっかりして、アクション映画を観るのが嫌になってしまいました。
じつは――
基本的には前回と同じです。その記述を書いた人間は大のアクション映画嫌いでした。たまたま脱税で検挙された○野○男がアクション映画スターであること知り、アクション映画の悪い印象を広めるためにそのような書き込みをしたのです。
ただし受け取る側では少々、メカニズムが異なります。Bさんはなまじアクション映画の大ファンであるだけに、判断を焦ってしまっています。
解説
「ある集合に属する一部の人間が何らかの悪いことをしていた」という事実を用いて、意図的にその集合全員のイメージ低下に用いることが出来るという点は同じことです。
ですが、なまじ親近感を抱いているだけに、冷静な判断が出来ず極論に至ってしまうことがままあります。振り込め詐欺と似たようなしくみだと考えてよいでしょう。
1・「○野○男の脱税が発覚」
2・「アクション映画スター○野○男の脱税が発覚」
3・「アクション映画スターの脱税が発覚」
Bさんの場合、「まさか」と思って自力で検索し、信頼出来るサイトで1や2の形の記事を見つけました。ここでBさんが「最初の情報は(3の形の)誤解を生み易い記述だった」と正確に分析出来ればよいのですが、そうとは限りません。
むしろ後から見つけた信頼の置ける情報を「アクション映画スターの脱税が発覚という最初の情報を裏付ける、決定的な証拠である」と受け取ってしまうことも十分に考えられます。
ちょっと待った!
問題点も前回と同じです。誘導なのか、たまたまそういう記述になっているかの判断は容易ではありません。
筆者の見解
振り込め詐欺は、確証バイアスによるものだと言います。詐欺師から「あなたの息子が逮捕された」と聞かされ、僅かでも「本当に息子が逮捕されたのかも」と疑惑を抱いてしまうと、「試しに息子に電話を掛けたら、出なかった」といった、どうとでも受け取れる情報を「逮捕されたから出られないのだ」と「息子が逮捕された」という疑惑を肯定する方向に解釈してしまうわけです。
上記の例なら、最初に読んだ悪意の記述がBさんにとってショッキングな情報であればあるほど、その後に得た情報がBさんにとってアクション映画スターについてのネガティヴな印象を肯定する方に作用する、ということになります。「これまでずっと応援していたのに、裏切られた」という感覚もあるかも知れません。
なお、今回のケースだと逆に判官贔屓して「アクション映画のスターがそんなことをするはずがない!」と報道された事実自体を全否定してしまう可能性もあり得ます。見た目は全く逆の反応と言えますが、どちらも「なまじ親近感を抱いているだけに、冷静な判断が出来ず誤って極論に至ってしまう」点は同じです。
確証バイアスについてはまた別に記事が書ければと思います。
演習
あなたが親近感を抱いているものを3つ挙げてください。
※その後、こちらを。
つまりそれらについて、あなたは冷静な判断がし辛いと言えます。