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『星空のコンチェルト』というテレビ・アニメがヒットしています。A君という高校生も『星空のコンチェルト』の大ファンで、とても素晴らしい作品だと思っています。DVDだって持っています。
そんなA君がたまたまネット・ショップで『○○党の暗部を暴く』という書籍の情報ページに辿り着きました。A君は政治のことはよく分かりませんが、何となくその書籍のことが気になりました。なぜならそのページにはこんなことが書かれていたのです。
「この商品を買った人の50%がDVD『星空のコンチェルト』を購入しています」
A君は漠然と
「僕と同じ『星コン』が好きな人がたくさん、この本を読んでいるんだな。○○党ってきっと胡散臭い政党なんだな」
と思ってしまい、その後、ネット掲示板などで○○党を悪く言っているのを見ると、ついついそれを真に受けるようになってしまいました。
A君のこの考え方、何かが抜けてはいないでしょうか?
ここがおかしい――
『○○党の暗部』という書籍を買った人のうちの50%はたしかに『星コン』のDVDを購入したのでしょう。しかしその反対、『星コン』を買った人のうちどれだけが『○○党の暗部』という書籍を購入したのかについては、A君はチェックしていません。
そしてじつは――
そのネット・ショップで『星コン』は2,000枚が売れました。しかし『○○党の暗部』は4冊しか売れていません。両方を買った人は、たったの2人でした。
解説
本来は全く無関係であるはずの『星コン』というアニメと○○党という政党、2つの事柄について「『星コン』のファンは○○党を胡散臭いと思っている」という錯覚が起こっています。それではなぜそのような錯覚が起こってしまうのでしょうか。ポイントは『星コン』の抜群の人気にあります。
十分に要素の多い集合Xと、比較的要素の少ない集合Yが積集合(共通項のこと)を持っているとします。Yの中で積集合が占める割合は、Xの中で積集合が占めるの割合に比べ、ずっと大きくなります。ところがA君が「Yの中で積集合が占める割合が大きい」という情報だけを断片的に得てしまったため、あたかもXとYの積集合自体が大きいように錯覚してしまったのです。
a・「『星コン』のDVDを買った人は『○○党の暗部』を買う傾向にある」
b・「『○○党の暗部』を買った人は『星コン』のDVDを買う傾向にある」
両者は全く別の事象です。aだからbとは言えません。実際に『星コン』を観た人の中で何%が『○○党の暗部』を読んだか確認して初めて、bかそうでないかが言えるのです。
なお、今回の本題からは外れますが『○○党の暗部』を読んだ人が、その本の中身を真に受けたり、○○党を嫌っていたりするとは限らないですし、また○○党の支持者があくまで内容確認のために購入したことも考えられます。
またA君が過剰に『星コン』に入れ込んでいることで、錯覚に陥りやすい心理状態にあったのかも知れません。この辺りはまた別の機会に。
ちょっと待った!
例題と同じようなケースであっても、もしかしたら本当に「『星コン』を観る人は『○○党の暗部』を読む傾向にある」ことが言える場合もあるでしょう。そこは注意が必要です。
ただ、そうだとしても。A君がいかに『星コン』の大ファンだからと言って『○○党の暗部』を読まなくてはいけないわけではありませんし、その本に書かれていることが事実だと信じなくてはいけないわけでもありません。それらは既に「グーニーズ脊髄論法」で述べました。
筆者の見解
今回の例題は、やりようによっては世論操作にも使えます。「『星コン』が好きな人は、○○党が嫌い」だと無意識に刷り込むことができれば○○党の人気を落とすのに役立ちます。遠回しではありますが、同じネットショップで『星コン』と『○○党の暗部』を買えばいいだけなのですからリスクも手間も大したことがありません。
また母体が多過ぎることは、時として物事を正確に捉えることを難しくします。当然ですが、利用者の多いネットサービスではそれだけ不心得な人間もたくさん出て来ます。それを「そのネットサービスのたくさんいる利用者全体が不心得である」と考えるのは「∃と∀の混同」です。
もちろんそれはそれとして、利用者の多いサービスの運営者はそれだけ、そのサービスの利用実態に対して責任を持って欲しいものです。
もう一つ。一時Web2.0という言葉が流行りましたが、結局のところは
・誰でも編集できる掲示板(いわゆるWiki)。
・利用者が興味を持った広告やコンテンツを、好みの似た別の利用者に対して表示する。
・記事を掲載し、利用者にコメントさせる。
・自分の書いた記事と他人のそれを関連付ける(ブログのトラックバック)。
・自分の書いた記事について、関連する商品の広告を掲載する(アフィリエイト)。
といったしくみが普及したようです。しかし筆者は、じつはこれらのしくみがネットにおける組織票とでも言うべきものを生み出してしまったような気がします。
演習
今後しばらく、ネット上で「あなたにはこの商品をお薦めします」「他の人はこんな商品にも興味があります」という形式の広告を見掛けたら、どういうしくみでそれが表示されているのか、またどうしてあなたにその商品が薦められているのかを考えてみてください。
※その後、こちらを。
あなたについても、他の利用者についても、そのショップでのページ閲覧&購買履歴がショップ側に管理されているということです。そしてあなたと似た傾向を持つ利用者が興味を持った商品を、あなたの画面にも表示しているわけです。
裏を返せば、あなたが何らかの商品に興味を示した場合、それが他の利用者に対して表示される広告にも影響を与えているということなのですよ。
例題
3年3組で学級新聞の企画としてこんなアンケートが行われました。
「この学校で一番嫌いなクラスは何年何組ですか」
集計したところ、
1位:3年4組
2位:3年2組
3位:5年1組
4位:6年2組
5位:2年5組
でした。他のクラスとのトラブルの件数についても集計したところ、ほぼ同じ順位となりました。これを知った3年4組の○○君は思います。
「僕は3組のことを悪く思っていなかったのに、あいつらは僕達のことをそんな風に思っていたのか」
その考え方、何か問題はないのでしょうか――
じつは――
5年1組というのは、以前に3年3組と合同でレクリエーションをしたクラスでした。
6年2組は担任の先生が学校で一番怖い人。
2年5組は教室が3年3組のすぐ真下にあり、共用する階段の辺りでよく生徒が遊んでいてトラブルになり易かったのです。
解説
普通に考えれば同じ学年の、特に教室の近い隣りのクラスとは生徒同士の交流は多いはず。交流が多ければ少なからずトラブルの件数も多くなります。必然的に嫌いなクラスとして挙げられ易いのです。夫婦喧嘩も、ご近所の揉め事も、取引先とのトラブルも、相手が連れ合いだから、ご近所同士だから、もしくは取引先だからこそ起こるのです。
また同じ小学校だからといって、3年の生徒が学年の違う1年や6年のクラスについて、どれだけ詳しく知っているのでしょうか。知らないクラスはそもそも嫌いになりようがありません。知らないもの、無関係のものはそもそも評価の対象から外れます。じつは6年4組には悪い生徒が多くて、隣りの6年5組はいつも迷惑を受けているかも知れない。でも教室の離れた3年3組の生徒が一々そんなことを知ってはいないわけです。これに関してはこちらで同様のケースを紹介しました。
もちろん3年3組の生徒の中で、上位にランクインしたクラスに仲のよい友達がいる子もいたでしょう。しかし今回、質問の内容がそもそも「嫌いなクラスは何年何組ですか」だったことも見逃せません。強いて嫌いなものをあげろと言われたらなおのこと、よく知っているお隣りのクラスにとりあえず投票することになります。この強いて嫌いなものを挙げるという質問形式もまた、誤解や錯覚を生む原因となります。
なのに、例に挙げたようなアンケートの結果をうっかり「隣りのクラスは自分達を特別に嫌っている」などと誤解してしまうのです。
ちょっと待った!
なお一応、本当に4組の誰かが3組の何人かに迷惑を掛けていたために、このような結果になったことも考えられますが、それならそれで4組の側が悪いわけです。
筆者の見解
人間、何か自分が揉め事の当事者になった時、相手が特に悪い人のように感じてしまいます。しかし得てして、「付き合いのあるお隣りさんとは多少なりともトラブルも起こる」レベルではないでしょうか。
別の見方をすれば、いい影響も悪い影響も受けるのがお隣りさんだとも考えられます。なのに悪い影響の部分だけをことさら取り上げるのは危険な考え方のように思えます。
なお、今回の例題はよくある錯覚として紹介しましたが、その気になれば煽動の材料にもなってしまいます。
例えば3年4組の××君が3年3組の△△君に個人的に嫌がらせを受けたことがあったとしましょう。××君は3組でのアンケートの結果を知って、腹いせに3組と4組とをケンカさせようと目論むかも知れません。恐らく××君はクラスの仲間に言いふらすでしょう。
「あいつら3組は俺達4組のことをそんな風に思ってるんだぜ。本当に嫌な連中だぜ」
あなたもネット上、あるいは雑誌などで上記のような発言を目にしたことがなかったでしょうか?
さらには××君は4組でもわざわざ同じアンケートを取るかも知れません。当然3組が上位に来ることは言うまでもないでしょう。アンケートというものを悪用すると、容易に敵対感情を煽れることにぜひ注意してください。
演習
今回紹介した他に、「隣りの○○」に当て嵌まるものを3つ挙げてください。
※解答例は割愛。