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メディア――そこは最後のフロンティア。

ここはクイズ形式の例題を読み解いてみることで、
ネットやメディアに潜む罠について考えようというサイトです。
初めての方はぜひ「ご挨拶」を。
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例題
第一高校のサッカー部が地方大会で優勝しました。しかしある関係者がこんなことを言います。

「あの高校のサッカー部は金に任せて全国から集めた特待生ばかりである。地方大会くらい優勝するのは当然だ」
 
そのこと自体はどうやら事実のようですが…。


じつは――
特待生として集められた選手達は、期待を背負ってチーム全員一丸となって練習に励みました。またその年から別の学校で実績のある監督が赴任して、指導に当たっていました。

なお、上述の関係者は第一高校のサッカー部のコーチと犬猿の仲でした。
 

解説
前回「積極的? 軽はずみ?」 ではほぼ同じ意味なのに印象が異なる言葉について解説しました。今回は「ある高校のサッカー部が大会で優勝する」という事実について、「金で選手を集めたのだから当然」だと解釈しています。

しかし物事というのは多面的です。同じ物事を指して、どうとでも評価出来ます。第一高校の例について、それを「チーム全員ががんばった」「新しい監督の腕がよかった」などと評価することも出来れば、「そもそも大した大会ではない」「金で選手を集めたのだから当然」などと言うことも出来ます。

じつはどれか1つが正しい解釈かも知れないし、どれも当て嵌まるかも知れないし、どれも本質を言い当てていないかも知れない。受け手の判断力を要するところです。言葉の上っ面で判断するのではなく、実際にその行為を事細かに見て評価するしかありません。

ここで問題となるのは、相手がした行為について他の解釈も出来るのに、それを恣意的に、最大限に悪意に解釈することで、相手の悪い印象を広めることが出来るということです。解釈の仕方によってはどうとでも受け取れることについて、マイナスの解釈だけを広める。これは立派な印象操作です。


ちょっと待った!
・逆に身内の不正を庇っておいて「仲間意識が強い」などと、悪いことを美化することも出来ます。最大限に善意の解釈です。

・最大限悪意(善意)の解釈だからと言って即座に間違いだとも言えません。場合によっては最大限の解釈が正しい場合もあるでしょう。が、後述のようにすぐにこうした極端な解釈に走る人の言動には十分な注意を払うべきです。


筆者の見解
ある情報を受け取った時、その真偽や正確さを確かめることも大切ですが、それだけでは終わりません。言っていることが事実であっても、その解釈については議論の余地があります。じつは情報の発信者が、情報にこっそり偏った解釈を含めている可能性があります。

どこまでが端的な事実を述べた部分で、どこからがその事実に対する評価なのか見極める必要がありそうです。述べられた事実が事実としては正しくても、そこに添えられた評価までが正しいとは限らないのです。

こうした文章中の事実の部分と評価の部分を区別する訓練は、日本では義務教育で多少なりとも行われているはずなのですが、案外その訓練の持つ意味が理解出来ている人は少ないのではないでしょうか。

さて、最大悪意の解釈が「たまたまそうした発言になった」のか「意図的な煽動」なのか見分けるポイントを。同じ人物やグループが、同じ対象に対して常に悪意の解釈を行っている場合、それは「意図的な煽動」である可能性が大きいと考えられます。

ところで、長谷川町子の漫画『サザエさん』でもこんなやり取りがありました。ある男性が、年老いた母親を大事にして庭で背負ってあげていたところ、近所の女性達が「親離れ出来ていない」「マザー・コンプレックスなのよ」などと噂します。それを聞いた男性は「昔は親孝行と言った!」と憤慨します。

意図的でなくとも親孝行をマザコンなどと評してしまうことは、結果的に予期せぬ風評に繋がってしまいます。そうした不用意な発言は避けるのがマナーです。


演習
次の3つの文章について、事実のみを抜き出してください。また事実はそのままで、悪意の解釈になるように書き換えてみてください。

1・「A君は大人の言うことをよく聞く素直な子だ」
2・「Bさんはこうと決めたらやり通す、意志の強い人だ」
3・「Cさんは親孝行である」




※回答例はこちら。 
 1・(事実)「A君は大人の言うことをよく聞く」
(悪意の解釈)「A君は大人の前ではいい子ぶって言うことに従う」
2・(事実)「Bさんは途中で方針転換しない」
(悪意の解釈)「Bさんは臨機応変ということを知らない、柔軟性に欠ける人だ」
3は回答するのが難しいですね。なぜなら親孝行という言葉自体が、既にいい意味の評価を含んだ言葉だからです。何をもって親孝行なのかについては、文中で触れられていません。
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例題
同じ町内に住むXさんについて、Yさんがこんなことを言っています。

「Xさんは人とケンカして怪我をさせたことがある」
「Xさんはふざけていて町の集会所のガラスを割った」
「Xさんはお酒を飲むと、とてもだらしなくなる」
「Xさんは奨学金を返していない」
「Xさんはゴミをそこらにポイ捨てする」
「Xさんは町内の回覧板をよく止めてしまう」
※これらは全て事実とします。

それを聞いたZさんはこんなことを考えます。

「ふうん、そんなに色々あるなんて、Xさんは問題のある人物なんだな」

果たして、そんな風に考えてしまってよいものでしょうか。


じつは――
Xさんは上記の一方で、人情に篤い人でした。近所の人の面倒見がよく、困った人にカンパしてあげたり、道行くお年寄りの荷物を持ってあげたりもしているようです。また川で溺れかけた子どもを救ってあげたこともありました。

Yさんは日ごろからXさんをよく思っていなかったので、彼に対する悪いイメージを広めたかったのです。


解説
Yさんが、Xさんの悪口しか言っていないということに気付いたでしょうか。基本的にはいい人であっても、全くすねに傷のない人はそういないはずです。性格的欠点もあるでしょう。

Yさんがしたことは、言うならば悪口のコレクションです。

相手のいいところには全く触れず、悪いところだけをリストアップする。こうすることで、一切嘘をつかずに相手の悪い印象だけを広めることが出来ます。

さらには「ケンカして怪我をさせた」というそれなりに重大な過失と「回覧板をよく止めてしまう」レベルの些細なことを一緒に言い及んでいることも見逃せません。ただ回覧板をよく止めるだけならありがちな話です。が、ケンカの事実や他の問題点と纏めてそれを聞くと、「人に怪我をさせるような人だから、そういうことでもだらしがない」などと受け取ってしまいます。

悪口をコレクションすると、それらの悪口が相乗効果をもたらして余計に悪い印象を与えます。些細な欠点までもがその相手の人格を悪く考える方に働いてしまうのです。「映画スターは脱税している? ~振り込め詐欺編」確証バイアスという心理学用語について触れましたが、悪口のコレクションもまたこの確証バイアスを巧みに利用していると言えます。

ところで例題の場合においてYさんは、自分のやっているXさん非難が「社会にとってよい行いである」と確信している可能性もあります。Xさんは悪人なのだから、彼を懲らしめるためなら何をしても構わないと考えているわけです。自分は善人だと思っている人でも、こうした悪口コレクションをやってしまうものなのです。


ちょっと待った!
例題では「じつはXさんはいいところも多い人」だとしましたが、傍から見ると「本当にXさんがただただ悪い人で、Yさんは特に悪意で悪口コレクションを行っていたのではない」という可能性もないわけではありません。

ですが、Yさんが意図的にこの悪口コレクションを行っていたのだとしても、自分からそれを認めることはないはずです。あくまで「Xさんは本当に悪いところだけの人なんだ」と言い張るでしょう。Yさんが意図的に悪口コレクションをしているのかどうかの判断は、Yさんの言葉だけでは確認のしようがないのです。

なお、もちろんですが、人とケンカしたり酒癖が悪かったりしてもよいと言っているわけではありません。


筆者の見解
ヘイト・スピーチやネガティヴ・キャンペーンという言葉を聞いたことがないでしょうか。ネットを眺めていて、一件正当な批判のようだが、そのじつやたらと相手の悪いところだけを強調しているのを一度くらいは見掛けたことがあると思います。いや何もネットに限らず、新聞、書店売りの書籍や漫画雑誌でもそういうことは可能です。

「“好色”をことさら強調!」では誰にでも当て嵌まるレベルの欠点をその人の固有の問題であるかのように言う論法を紹介しましたが、これと今回の「悪口コレクション」と組み合わせるだけでも、簡単にヘイト・スピーチが可能です。

「事実を述べているのだから問題がない」と反論する人もいるでしょうが、それは違うのではないでしょうか。ある人物についてその悪い点だけを並べ立てることで、その人物への単なる人格攻撃になってしまう。そこが問題なのです。

そもそもある問題点についての正当な批判なら、その問題のみに論点を絞るべきです(例題なら酒癖が悪いなど)。逆にその人物の全体像についての議論ならば、いい点も悪い点も公平に並べるべきでしょう。

なのにその人物の悪いところだけをいくつも論うのは、その論う側(この例の場合はYさん)にXさんに対する何らかの負の感情があるから、とは考えられないでしょうか。

これは人物に限らず、政党や民族、企業などの集団でも同じことです。あるいは商品や催事、何でも当て嵌まります。

なおヘイト・スピーチを法規制しようという流れもあるようですが、うっかりすると本当に必要な批判まで規制してしまいかねないため、簡単ではないようです。規制議論はさておき、少なくとも悪口だけをコレクションする言い回しを聞いても真に受けないよう、日ごろから注意した方がよさそうです。

※ヘイト・スピーチの方法としてはこの他に「解釈次第ではどうとでも取れることを悪く言う」方法があります。これについては後日。


演習
あなたの性格について、いい点と悪い点をそれぞれ5つ以上挙げてください(無理にでも)。




※その後、こちらを。 
ではいい点は伏せて、悪い点だけを考えてみてください。誰かがその悪い点“だけ”を人に言いふらしたとして、あなたはそれを正当な批判だと黙認出来るでしょうか。
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